あなたはチケットを持ってあの場所へと向かう。
今日は1人で大通りを歩き、何かに呼ばれるように路地へと入って行く。
そして人けのない道を抜けると空き地ではなく見覚えのある立派な劇場が現れた。
狩「すげえ!あんじゃん!(写真を撮る)」
竹 写真撮ってもいいですよ。ただまあ写真には何も映らないので、SANcで。
狩 SANc→成功
竹 じゃあ0で。
狩「こんにちはー(とりあえず入ってみる)」
大きなガラス扉をくぐり中へ入ると木のマネキン(デッサン人形みたいな感じ)が1つ横に立っていて、手を差し出している。
狩「(握手する)」
竹 特に反応はない。
狩「これ欲しいのかな?(半券を渡す)」
あのチケットを渡せばそっとそれを掴み自身の胸の辺りに持って行くとマネキンの中に溶け込んでしまった。
狩「取られちゃった!」
竹 まあでも、さらに奥に進めるようになりますね。
今あなたはロビーにいる。目の前には客席へ続くであろう両開きの扉、右手の方に進んでも同じような扉がある。左手の方に進めばお手洗いがあるらしい。
2階の客席へ向かうには右手奥の階段を登ればすぐに扉が見える。
狩屋「(お手洗いに向かう)」
・トイレ
劇場らしいたくさんの個室が並んでいる。
竹 以上。
狩「(ロビーを見る)」
・ロビー
開演までの間ゆったり過ごせる場所。壁に貼られたポスターや置いてあるチラシは古いものばかりだ。
竹 ロビー全体とチラシに目星が振れる。
狩 目星(ロビー全体)→成功
調べてきたものが事実だと肯定するように赤い染みがちらちら見受けられる。
あの取り壊された劇場はここで間違いないようだ。
狩 目星(チラシ)→失敗
竹 いきなり頭上に設置されたスピーカーから声がする。『間もなく開演いたします……』
竹 聞き耳、もしくは知識が振れます。
狩屋 知識→成功
竹 藤谷の声に似ている気がする。
狩「(藤谷くんの声みたい!藤谷くん、ここで働いてるんだ!)」
狩「(客席への扉を開ける)」
両開きの扉には《お好きな席へ》と貼り紙がされている。
その重い扉を開けば手前から赤い椅子が何列も並んでいる。一番奥には舞台があり、緞帳が降りていてまだなにがあるかわからない。
そしてなによりあなたの目を引くのは、座席に座っている木のマネキンたちだ。席の6割程はそれで埋まってしまっている。マネキンは動く素振りなどは見せない。
狩「人いっぱいいる!人じゃないか!」
竹 セルフ突っ込みね。マネキンが座っていない場所ならど真ん中でも通路席でも好きな場所に座れる。
狩「(前の方に座る)」
あなたが席に着きほっと一息つくと、開演のブザーが鳴り明かりが少しずつ消えていく。
幕が上がる。
舞台も客席も、まだ薄暗いままだ。
そして、一筋のスポットライトに照らされ浮かび上がったのは舞台上に立つ藤谷あまねだった。
よく知る顔から目が離せない。そんなあなたに見向きもせず舞台上の役者は物語をつむぎ始めた。
藤「これは僕の記憶であり……思い出、です。」
その言葉とともに、彼の背後に下げられていた緞帳が、勢いよく跳ね上がった。
緞帳の向こう側には、大きな額縁が吊り下げられている。そしてその更に向こう側に、男と女が二人、微笑みながら佇んでいる。女の方にあなたは見覚えがある。藤谷あまねの母親だ。
そして男の方は、髪型や雰囲気こそ違えど、顔・背格好は藤谷あまねに瓜二つだ。
狩 アイデア→成功
狩「(仲良しだったのかなぁ、藤谷くんのお父さんとお母さん)」
正面を向いていた藤谷あまねがくるり、と振り返り、額縁に歩み寄る。そして、額縁の向こう側に足を踏み入れた瞬間。
藤谷あまねの身体がみるみるうちに縮み、完全な子供の姿に変化した。
狩「(ちっちゃくなっちゃったぁ!)」
狩 SANc 0/1→失敗
額縁の中に3人が並ぶ。さながら大きな家族写真のようだ。無音の舞台に、軽快であたたかみのあるジャズ・ミュージックが流れ始めると、舞台セットがひとりでに移動し、明るいリビングルームに変わった。
「あなた、聞いて。昨日幼稚園にあまねを迎えに行ったらね、他のお母さんたちに褒められたのよ。ハーフなんて羨ましいわって。」
狩「(ちっちゃい藤谷くん可愛いな!)」
スクランブルエッグの載った皿を運びながら、藤谷あまねの母親が男に話しかける。男は興味なさげに、横目でちらりと藤谷あまねを見る。
「そうか、それは良かったな。」
男の話す言葉は明らかに日本語ではない。しかし、探索者にはその意味が、頭に直接流れ込んでくるように理解できる。SANc0/1
狩 SANc0/1→失敗
「それにね、あまねは本当に何でも出来るのよ。折り紙も塗り絵もクラスで1番上手なんだから。器用なところもあなたにそっくりね。」
狩「(藤谷くんすごーい!おれ折り紙苦手だったんだぁ)」
スクランブルエッグを頬張りながら、藤谷あまねは黙って会話を聞いている。褒められているにも関わらず、その表情に笑顔は見られない。
「あまねが生まれてきてくれて本当に良かったわ。おかげであなたも結婚に踏み切ってくれたし…。私、今とっても幸せなのよ。」
「もう行く。」
母親の話を遮るように立ち上がり、男が言った。藤谷あまねがビクリ、と肩を震わせる。
「今日は仕事が忙しいから遅くなる。」
「あら…朝食はもういいの?」
「ああ。」
狩「(藤谷くんのお父さんは仕事熱心なんだなぁ)」
「それじゃあ、行ってらっしゃい。お弁当忘れないでね。」
「ありがとう。…そうだ、やよいも子育てで疲れただろ。今週末は家のこととコイツのことは俺がやっておくから、たまには旅行にでも行って羽を伸ばしてきたらどうだ?」
「まあ…!とっても嬉しいわ。あなたは本当に優しい人ね…。あまね、お父さんとお留守番、頼んだわよ。」
狩「(優しいお父さんだ!)」
藤谷あまねは不安げに母親を見つめているが、少しの間をおいてからコクリ、とうなずいた。そして母親と二人、舞台袖にはけていく男に向かって小さく手を振った。
狩 アイデア→成功
男が藤谷あまねに一切話しかけていないことが気にかかる。また、藤谷あまねの方も、心なしか男に対して警戒心を抱いているように見える。
狩「(藤谷くん、お父さんのこと苦手なのかなぁ)」
暗転。
舞台の半分、下手側だけに照明が灯される。パジャマ姿の藤谷あまねが、布団にくるまって寝ている。
「…っぁ、あんっ…!」
甲高い嬌声と、それに呼応するような不明瞭なささやき声が、舞台上手側から聞こえてくる。
その物音によって目が覚めてしまったのか。起き上がった藤谷あまねが寝ぼけまなこを擦りながら、舞台中央に設置された扉を少しだけ開けた。
上手側に照明が灯される。先ほどの男が、女を組み敷いている。その女は藤谷あまねの母親ではない。もつれ合う男女は、服を脱ぎ、キスを交わし、息を荒げている。それはまごうことなきセックスであった。SANc0/1
狩「(友達が見せてくれた動画と似てる!)」
狩 SANc0/1→成功
狩「(ふりんだー!)」
藤谷あまねは驚いた様子で目を見開き、その場にへたり込んでしまった。
「誰だ?」
視線に気づいた男が情事を中断し、扉の方に近づく。動けない藤谷あまねの目の前で、扉を勢いよく開けた。
「…なんだ、お前か。…寝てりゃよかったのに…。」
男は片手で、藤谷あまねの頭を強く押さえつけた。ミシリと頭蓋の軋む音が聞こえてくるほど、その腕には力が込められている。
狩「(力持ちだ…じゃなくて、藤谷くん痛そう)」
「おい、今日見たことをあの女に言ったら…ぶっ殺すからな。」
そう言い残して手を離し、バタンと扉を閉めた。上手側の照明が消える。
狩「(怖い人じゃん!)」
舞台上にただ一人取り残された藤谷あまねは、下手袖へと走り去る。その顔は、恐怖に歪んでいた。
暗転。
真っ暗な劇場内に、男と女の激しい口論の声が響き渡る。いがみ合いは徐々に激しさを増し、ドゴッ、という重い殴打の音と女の悲鳴に変わった。
舞台上に明かりがともる。藤谷あまねの母親がうずくまって泣いている。よく見ると顔や腕には殴打の跡がびっしりと残っており、傍らでは同じように痣をつけた藤谷あまねが、その様子を心配そうに見つめている。
その状態が、長く、とても長く続いた頃。
どこからともなく讃美歌が流れ出し、舞台上がにわかに明るくなった。
まばらな光線の柱が、二人を照らしている。そのスポットライトは、まるで雲の隙間から差し込む光のようで、見事だ。
うずくまっていた母親が、何かに導かれるように顔を上げ立ち上がり、光源の方向を凝視し始める。
藤谷あまねが何度か呼びかけるが、いっこうに反応はない。瞳がかすかに濁っている。
不意に、彼女は口角を釣り上げ、満面の笑みを浮かべた。かと思うと、途端に藤谷あまねの方に向き直り、真剣な顔で語りかける。
「あまね、ごめんね、お母さんずっと前を向けなくて…でももう大丈夫よ。神様にお祈りを始めてから、お母さん心が軽くなったの。」
突然のことに、藤谷あまねは動揺した様子を見せる。しかし、それにも構わず母親はまくし立てた。
「お父さんがいなくなったことが悲しくて悲しくて…でもきっと、お父さんを信じる心が足りなかったのね、だからきっとお父さんも不安になってしまったんだわ。それに……お父さんはきっと、あの女に騙されたに違いないわ。」
笑顔から、悲痛へ。悲痛から憎悪へ、コロコロと変わる母親の表情に、探索者は人ならざる不気味さすら感じる。
狩「(藤谷くんのお母さんやっぱこわ!)」
「でも、神様の言うことにさえ従っていれば、あの女みたいに汚い人間にならずに済むのよ。…さ、あまねもお父さんが帰ってくるように、神様にお祈りしに行きましょう。」
藤谷あまねは母親に手を引かれるが、そこから動こうとしない。否、動けないのだ。讃美歌が歪み始める。
「……あまね?どうかしたの?」
「……」
「…あまね。どうして母さんの言うことを聞いてくれないの?」
「でも…」
讃美歌のテンポが狂いだし、所々にノイズが走る。
「……わかったわ…きっと悪魔に取りつかれたのね…早くお祓いに連れて行かなくちゃ……あまねが汚れちゃう前に早く……」
狩「(藤谷くんのお父さんもお母さんも、うちの父さん母さんと全然違うなぁ)」
激しい憎しみを瞳に浮かべ、ぶつぶつと呟きながら、母親は藤谷あまねの髪を掴んだ。そして無理やり、引きずるようにして舞台袖へと連れていく。
讃美歌はもはやただの歪んだ騒音に変わっていた。
暗転。
そしてその騒音は、劇場全体を震わせるほどの大音量で響き続ける。
真っ暗な視界の中で、爆音のノイズによって脳みそを掻きまわされ続け、意識が遠のきそうになった頃。
突然舞台に明かりがつき、探索者の目を眩ませた。ノイズはいつの間にか止んでいる。
舞台上には現在の姿の藤谷あまねが登場し、先ほどまでのことは嘘のように恭しく一礼した。そして、そのままガシャン!と大きな音を響かせ倒れてしまった。
狩「(わぁっ!)」
そこにあるのは藤谷あまねではなく、ただの木のマネキンだった。
そしてゆっくりと客席に明かりが戻ってくる。
演目に対してのSANc0/1
狩 SANc0/1→成功
あなたは藤谷あまねの過去を見てしまった。
なぜこの劇場で、ただのマネキンが再現できたかはわからない。
だがこんな舞台を見て藤谷は《楽しかった》なんて言っていたのかと思うと意味がわからなかった。
狩「(これ、本当のことなのかなぁ)」
竹 舞台上を調べられるよ。
狩 目星→成功
先ほど崩れたマネキンの横に、あなたに届いたあの半券が落ちている。
半券を見ると、タイトルの部分が『 × × × 』からいつのまにか「藤谷あまね」に変わっている。
あなたが舞台上にいると最前列に座っていたマネキンが1つ動き出す。
あなたの方に近付いて来ると、マネキンの横に吹き出しが現れた。
マネキン『すごくおもしろかった』
タイピングされるように吹き出しに文字が浮かびあがる。
マネキン『君もそう思わない?』
狩「そうなの?」
顔のパーツはひとつも無いのに目が合っているような錯覚をする。目の前にいるマネキンは笑っているような気がした。
マネキン『さて、ここからが本題だよ。』
そう言うとマネキンは、
・この劇場へはトラウマと呼ばれるような過去を抱えていてそれを消したいと思っている者にしかチケットは届かないし、辿り着けない。
・ここでもう一度演目として過去を再現し、間違いがなければこの場で消し去り家へ帰す。
・それを消した後の様子を観た観客、つまり探索者に客観的な判断をくださせる。
このおかしな劇場のシステムと呼べるような内容をつらつらと語ってみせた。
マネキン『君はどうしたい?記憶を持って帰って本人に返してもいいし、このまま置いていってもいい。ただ昨日の藤谷あまねの楽しそうな顔を忘れないでね。』
狩「おれが決めるの?」
塵 今藤谷ってどういう記憶になってるの、普通に。お父さんがいない理由を何だと思ってるの?
竹 なんでかわかんないけど、お父さんはいないし、なんでかわかんないけど、ママは教会に行ってるみたいな感じ。
狩「…あんまり忘れるのはよくないんじゃないかな。」
マネキン『記憶を藤谷くんに返したいのかい。』
狩「うん。だってそれ、藤谷くんのものだから。」
マネキン『うーん。まあ、それならそれでいいけど。』
なんだか馬鹿にされている気がするが、次の文字が浮かび始めたため、探索者は黙って聞くことにした。
マネキン『記憶を返してあげたいならそれなりに君にも頑張ってもらうからね。でもこちらから出せるヒントは1つ。このまま君が帰ることはおすすめしない、ここでちゃんと考えて、答えを見つけてから帰るんだよ。』
狩「うん、分かった。」
吹き出しの文字は増えもしなければ減りもしない。本当にこれ以上何かを言う気は無いようだ。
狩「(舞台に登ってみる)」
竹 マネキンが倒れている。それくらい。
塵 じゃあロビー行く。
竹 ロビーのチラシに目星もう一回振ってもいいよ。
狩 目星→失敗
竹 図書館でもいいよ汗
狩 図書館→失敗
竹 なんか今の時点でなんかその、するべき行動の方針とか立ってたりするかな。
塵 うーん。なんか施設のマップとかあるなら見たいけど。考え図みたいな。館内案内図みたいな。
竹 ないね
塵 じゃあ、ないわ。
竹 アイデア振っていいよ。
狩 アイデア→成功
竹 劇で動いていた藤谷くんが、その劇が終わってからガシャンって倒れて、そのそばにチケットの長いやつが落ちてたっていうことを思い出して、こう、このチケットがあるとマネキンが動けるってことなんじゃないかなっていう風に思いつく。
塵 うーん…
竹 チラシの目星もう一回振る?
狩 目星→失敗
竹 どうしようかな、やっぱこの情報は無いと詰むよなー…。大切なのは、そのチケットが あると動けるってことは。じゃあ逆に動いてるマネキンはどういう状態かっていう、そこをちょっと考えてほしいかな。
塵 マネキンには何か書いてあったりしないんだよね?倒れてるマネキンには
竹 書いてない。でもそのマネキンは動いてた、さっきまで。
塵 そのマネキンにチケットを押し付けてみよう。
狩「これ、いらない。」
マネキン『えーと、これを置いていくってことでいいんですか。』
狩「…置いていきはしない」
狩 アイデア→成功
竹 藤谷くんが喫茶店で話していた時に、劇を見に行ったら、長い方も短い方も回収されちゃったっていうことを言ってたなっていうのを思い出す。
塵 なるほど。なんか、返してって言うと返してくれるの?
竹 あ、言う?返してって
塵 言う。
あなたがマネキンの言う答えに辿り着き、チケットのことを話せば吹き出しに文字が浮かぶ。
マネキン『おめでとう』
あなたに賞賛を送るべく拍手をしようとした瞬間、ガシャン!と音を立ててマネキンは目の前で倒れてしまった。
そこには動かなくなってしまったマネキンと先ほどと同じようにチケットの半券が落ちている。しかしあなたに届いたものと違い、それは小さな半券だった。
それを拾うと、あなたは急に静寂に包まれてしまった劇場に不安になる。
そこから逃げるようにマネキンたちが座る客席の間を抜け扉に向かった。
一段、一段と階段をかけ上る度になにか思いが溢れてくる。不安か、選択に対する後悔かもしれない、自分は正しいという自信、もしくはそう言い聞かせているだけかもしれない。
あなたがぐるぐると思いを巡らせる頃、出口はもう目の前にある。
大きなガラス扉にあなたは手をかけた。
何度か見た景色が目前にある。
後ろを振り返ればそこは何も無いだだっ広い空き地だった。
自分は舞台を観に来ていたはず、劇場も無くなってしまえば夢か現かもわからなくなる。
ただ確かなのは手に握りしめられたチケットだけだった。
狩「(藤谷の元に向かおうとするが、藤谷母が怖いのでまず電話でアポを取る)」
藤「…あ、狩屋くん、あの」
藤「ごめん。ちょっと家に来てほしいんだけど、家から出たら迷子になっちゃいそうで。なんか、あの女の人も今いないから大丈夫だと思う。」
狩「あ、ほんと?じゃあ行くね!」
あなたがなんとかしてチケットをKPCの手に渡した瞬間だった。
いきなり目の前が真っ白になる。チケットが喜ぶように煌々と輝いていた。あなたが眩しさに目を閉じてしまった隙にそれはもう消えてしまっていた。
藤「…狩屋くん?あれ、何?どうしたの?」
狩「うーんとね、うん。藤谷くんがね、置いてっちゃってたから。おれ、忘れ物届けに来てたの。」
藤「…僕、なんか忘れた?学校とかに…。」
狩「うん、なんか。忘れてたから。」
藤「そっか…。ありがとう、わざわざ…。」
狩「うん!」
妙に明るいでも、楽しそうでもない、聞き慣れた声があなたに届いた。
狩「また遊び行こうね!」
藤「うん…、行こう。」
狩「うん!じゃあ、ちょっとお母さん帰ってくる前に帰るね!おれ怖いから!
藤「う…うん、ありがとね。バイバイ。」
狩「バイバイ!」
消したいと願うほどの藤谷の過去。他人だと言われてしまうかもしれない探索者がとやかく言うことは間違いかもしれない。
ただ藤谷の痛みに少しでも触れてしまったのなら、もうあなたはいつかの夢で見たような傍観するだけの観客ではない。
今度こそ1人蹲る藤谷あまねに手が届く。
あなたは舞台上にあがった。
《シナリオ背景》
もう十数年も前、月に何度も公演を行えるような地元の人にも遠方の人にも愛される綺麗な劇場が建っていた。
だがここで公演を行った劇団は必ず役者が亡くなるといういわく付きの場所だ。
最初の頃は事故と言っていれば済んだ話だが、何度も何度も事件は起こった。
すると昔ここは墓地だった、地下に防空壕がある、病院が建っていたと確信もない噂と都市伝説が広がり始めてしまう。
人々に愛された劇場は呪いの劇場だと言われ取り壊しとなってしまった。
確かにここには何かある。
だが死んでしまった劇団員達は舞台が好きで、劇場が好きで、もう更地になってしまった劇場跡地に集まってしまった。
ここでまた演目が見たい。
そんな思いが来れるはずのない幻想の劇場に人々を呼び込んでしまう。
最初はただ迷い込んでしまった人の日常や過去を見ていれば満足だった。だがある時《トラウマ》と呼ばれる演目として見応えのある劇的なものを観る。
これだ。そう思った途端次はトラウマを持っている人を狙い呼び込み始めた。
そして十数年という月日の間に、魂だけの劇団員たちは呼び込んだ人の知り合いまで巻き込むようになる。
こんな悲しい記憶を消してしまったほうがきっとその人のためだと唆し、迷い困る姿を見てそれも演目の一環だと楽しんでいた。
劇団員たちの性格が悪くなってきた頃、劇場に呼び込まれてしまったのがKPCだった。
マネキンとして客席でなりを潜める劇団員たちに、素敵な演目をお届けしてください。