きっと仕方の無いことなのだ。彼と出会ってしまったことも、記憶にない傷跡を背負う事になったのも、……この恋文が彼に届けられなかったことも。記憶を探る中で抜け落ちた数か月間に書いた日記のようなものを見つけた。そこには、彼との思い出が自分でも乙女かー!って突っ込みを入れたくなるくらい楽しげに綴られていた。なんだか密やかな他人の思い出に素手で触れるような居心地の悪さを感じたが、これも記憶を取り戻す治療の一環だと自分に言い聞かせた。……全てを読み終えても、ハッ!と記憶が蘇るなんてことはなく、疲労感だけが残った。本当にこれあたしが書いたの?マジで言ってる?浮かれすぎでしょ、恥ずかし……。恥ずかしさと悔しさを半分ずつ飼いながら分厚い惚気を机の隅に置いて、次に引き出しを整理する。急いでいたのか折り目のついた何枚かの紙が奥の方に重なり合っていた。引っ張り出して読んでみると、どうやらそれは手紙のようだった。よりにもよって、あたしからたかまっつん宛の。…………なんだ、あたしこんなに変わっちゃったんだ。でもちょっとだけ嬉しい。手紙の中のあたしと地続きになれなかったあたし、似ているけど多分、違うあたしになるんだろうな。だから今彼に抱く思いは、きっとあたしだけのものだ。あたしも彼と……高松彰吾と過ごすことで、変われるかもしれない。……なんてちょっとロマンチスト気取っちゃったり?なんだか手紙に感化されてきてあたし自身もおかしくなってきた気がする。なんか顔熱いし。気を紛らわそうと、先程からメタル?の本を読んでいる彼に声をかける。

「自分の日記とか整理するのめっちゃ疲れる~たかまっつん読む?」

「興味ない。記憶の手掛かりになりそうなら別だが」

「え、……そう?…………ラ、ラブレターかもよ~?」

「……見せたくないものだってあるだろう」

 そんなものない、って言えなかった。きっと彼は気にしてなんかいない。それが当たり前だと思ってるから。でも、でもそれは……。何か言いたかったけれど、言葉がうまく出なかった。

 

彰のののお話は「きっと仕方の無いことなのだ」で始まり「何か言いたかったけれど、言葉がうまく出なかった」で終わります。

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