「結婚したんだ!」
同僚の驚いた声に続いた「指輪は?」という問いかけに本日2回目の溜息を付いて、数分前と同じような説明を再び繰り返した。
「なんかオーダーメイド?とかでようやく届いたと思ったらアイツが作り直せっつって返品しやがったんだよ。マジで金銭感覚狂ってんだろ」
「それで拗ねてマスターのとこ来たの?」
「……別に拗ねてねえし」
待ち望んでいたものを手にした傍から取り上げられれば、誰だって気分は害されるだろう。
「ねえねえ、皆世さんどんなこと言ってくれたの?」
やたら俺たちの関係を気にしていた同僚は興味津々といった様子で身を乗り出す。これは話さないと解放されないな、と諦めて数日前の事を思い出し始めた。
――3日前。
アイツの自室で過ごしていた時だった。突然Al〇xaが喋りだした。
「荷物が発送されました」
それだけならなんとも思わない。普通に買い物するより通販の方がよく使うのは知っていたし。……まあ、急に声が聞こえてきたのはビビってムカつくけど。問題は次に続いたセリフだった。
「心音理澄さん宛の荷物です」
思いもよらぬところで名前を呼ばれ、ガタッと椅子から立ち上がる。…………多分、知らない方がいいやつ……だよな……?荷物の詳細を続けようとするA〇exaを止めようと、周りをウロウロと歩き回っていると、不意にノックの音が聞こえた。
「心音さん、戻りました。お待たせしてしまい申し訳ありません」
扉を開けて入ってきたのは今一番会いたくない人物だった。どうする?バレたら気まずい。ってか普通に気になる。なんだよ俺宛てって。コイツ毎回俺に隠れてコソコソ動きやがって、……ムカつく。
「うるせえ……」
「心音さん?」
「待ってねえよクソが!!」
「!?」
完全に感情に任せた結果、俺は照仁に向かってAle〇aを投げつけ、照仁は奇跡的な反射力でそれを避けた。そして、行き場をなくしたAlex〇は大きな音を立ててその後ろの花瓶を破壊した。
「…………」
「……っぁ、…………」
「……心音さん」
「ぁ、いや、その…………悪かった」
「……はぁ、何でそこまで気分を害されたか存じませんが、力でものを言わせようとするべきではありませんよ」
「んだよ。ただの説教かよ……チッ」
このままなあなあになるかと心のどこかで一安心していた。次の瞬間、無情にも機械音声が鳴り響いた。
「心音理澄さん宛の荷物は、明後日〇月×日に到着予定です」
「あ…………」
「わああああああ!!黙れって!」
「……なるほど、聞いてしまったのですね」
「きッ……聞いてない!何も聞いてねえ!知らねえ!!」
「流石にそれは無理があるのでは……」
「うううるせえ!聞いてねえっつってんだろ!!」
「……本当は現物が届いてからお伝えしようと思っていたのですが」
照仁は1歩こちらに歩み寄ると俺の手を取った。思わず身構えると、くすりと笑われた。
「……心音さん」
「な、なんだよ……」
「私と……結婚していただけますか?」
本当に嬉しいとき、言葉よりも涙が出るのだと知った。
天悪のお話は「結婚したんだ」という台詞で始まり「本当に嬉しいとき、言葉よりも涙が出るのだと知った」で終わります。