花なんか別に好きじゃなかったけれど、毎週違った色で花瓶を彩る遥琉につられ、草木を眺める時間が増えた。いつも嬉しそうに花屋との話を語るものだから、少しばかり妬いて思わず買ってしまった図鑑のお陰で花言葉も覚えた。彼との会話の話題に花が取り上げられることも増え、私も存外花を愛でる心があったのだと驚いた。

 今日は私達の記念日。すぐに帰るから、と膨れっ面の遥琉を何とか説得して一人で花屋まで来ると、ブルースターのブーケを受け取る。遥琉が通っている店とは別にして、気付かれないように事前に注文しておいたものだ。ジャケットに忍ばせた"本命"の存在を確かめてから、家のドアを開けた。出迎えに来た遥琉へ小さな水色の花々を差し出す。途端に、その花を目に映した遥琉の表情が綻んだ。

 

「実はもう一つ渡したいものがあるんだ」

 首を傾げる遥琉がいちいち可愛らしくて思わず笑みを零してしまう。緊張を悟られないよう滑らかな指先をそっと握りしめ、その手に小さな箱を収める。開けるよう促すと、遥琉が期待交じりの顔でゆっくりと開いた。彼の瞳がいつになくきらきらと煌めく。次の言葉を待つ間、高まる不安を忘れてその輝きに釘付けになってしまう。柔らかな唇が言葉を紡いでいくのが、やけにゆっくりと見えた。

「みつくん――」

 

 鳥の声で目を覚ます。隣に眠る彼の薬指にぴったり嵌められた希望の光。お揃いの銀色の指輪が朝日を反射して眩しかった。

 

みつはるのお話は「花なんか別に好きじゃなかった」で始まり「銀色の指輪が朝日を反射して眩しかった」で終わります。

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