久々宇が鬱になった

サークルの練習が終わった相ケ瀬は、久々宇の待つ家に帰る。今日の夕飯は何だろう、と考えながら鍵を回した瞬間、バタバタと足音が響く。首を傾げながらもドアを開けた。

「ただいま」

「お、おかえりっ……」

いつもと違う暗い室内に眉をひそめて電気のスイッチを押すと、出迎えに来た久々宇を見る。今日は休みのはずだが、どこか疲れたような顔をしている。何か言いづらそうに、あー、とかうー、とか唸っていたが、しゅんとした様子で目線を下げると、

「…………悪い……夕飯まだ、準備できてなくて……すぐ作るから……」

「あ?まあ別にいーけどよ……寝てたのか?」

赤い目元を見て、そう尋ねる。しおらしい態度に、張り合いのなさを感じた。

「……あ、うん…………そう、…寝て、て……ごめん」

曖昧にそう告げると逃げるようにキッチンへ駆けていった。

 

荷物を自室に置くと、あの……と控えめに声がかけられる。振り返ると視線を泳がせる久々宇の姿が。

「なんだよ?虫でもいたか?」

「……あ、いや…………何、作ればいいか、分からなくて……。何……食べたいかな、と思って……」

「んだよそれ。そーだな……オムライス、食いたい」

「わ、分かった……!ありがとなっ」

途端に安心したような笑みを浮かべてまたキッチンへと戻っていく。……なんか、ケンの奴変じゃねーか?徐々に大きくなっていく違和感が、不安となって身体に染み込む。疑念は直後に、確信へと変わった。

 

すすり泣くような声が近づいてきたかと思えば、再び訪れる久々宇。部屋に入るや否や崩れ落ちて、取り憑かれたように謝罪し始めた。

「お、おいっ!どうしたんだよ」

「ごめんっ……ごめんなさ…ぃ…………鶏肉、無くて……オムライス、……っ作れな、くてっ…………ごめん……」

神妙な面持ちで何を言われるかと思えば、たったそれだけの事で?思わず素っ頓狂な声が出る。

「…………はあ?別に無くても作れるだろ」

「……ぁ、……ご、ごめんっ……ごめん…………」

「……あー、いい。いいから泣くなって……」

初めて見る姿にどうしたらいいか分からず、できるだけ優しく声をかけながら背中をさする。とにかく事情を聞かなければ。

「…………なあ、今日なんか、おかしくねえ?」

「え……あ、ご、めん……」

「謝んなって……、クソ……調子狂うな…………」

さっきからびくびくして、めそめそして、別人と話しているような錯覚すらある。

「なんかあったのかよ、今日」

「……今日、は…………なんか、今日……変で…………」