名前も知らないその人に、ひと目で惹かれてしまった。彼は時折出会った時の事をそう表現する。美醜にこだわりはない、というか興味すらないが、恐らくノワくんの言っているのは、そういう意味ではないだろう。あの時の発言に、間違いは1つも無かったと自負しているが、会話としては面白みに欠けていたと反省している。自分なりに追憶に耽っていると、話し始めた当の本人が上の空でもじもじとしている。気付くのが遅れたが、どうやら本題はこれからのようだ。彼が差し出した――所謂プレゼントに思わず目を白黒させる。こういったものを貰うのは初めての経験だが、なるほど道端に咲くそれを眺めるのとはまた違った情緒を感じる。こんな時に、なんと言い表せばいいのだろう。

「ありがとう」

 口から出てきたのは何の変哲もない言葉で、かえって顔が熱くなるのを感じた。彼はその花言葉を知っているのだろうか。いや、僕から話したのだから彼が記憶していない訳がない。数刻後、賑やかなキッチンの音が響くダイニングには、花瓶にバラが一輪だけ差してあった。

 

まほノワのお話は「名前も知らないその人に、ひと目で惹かれてしまった」で始まり「花瓶にバラが一輪だけ差してあった」で終わります。

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