【小説】Einzelgängerの独白(小学生編)


その2

 進級して、小学校5年生とかかな。それくらいになると、大体決まって親との関係性に疑念を持ち始める奴が多いだろ。少なくとも俺はそうだった。俺は、両親がなんとなく俺を避けていることに気づいた。

 飯は作り置きだし、まあ放課後は大体セックスしてる奴らだから会話もクソもねえけど、でも昔は耳にタコができるくらいされた「将来の話」を――俺が父さんの会社を継ぐって話を、全然されなくなった。

 決定打になったのは、真夜中。便所行くために起きたら、珍しく父さんと母さんがひそひそ声で何かを話していた。こういうのって盗み聞きすると大抵ろくなことが起きねえんだよな、と思いつつ、俺はドアに耳を当てた。「ペーターに会社は任せられない」「あの子には人の心が分からない」「化け物みたいな子だ」端的にまとめると大体こんな感じ。それで俺は確信した。俺と両親は、いや違う、俺と他の奴らは違うんだ。俺は、違ってしまっているんだって。

 それで、なんだか急に全部がおかしくなって笑えてきて、勢いよくドアを開けた。そしたらいつもの乱交パーティーの休憩中だったみたいで、裸の男と女がもつれ合いながらくつろいでた。人間の体ってぶよぶよしてて面白いのな。一通り部屋を見回してから、俺は父さんに言った。「ねえ父さん、随分楽しそうだね。……俺も混ぜてよ。」「人間ってさ、どうやって抱くの?」

 

 盗み聞きって良い結果をもたらすこともあんのな。あの夜は今思い出しても最高だった。ほら、初体験って記憶に残るもんだろ。最初は女を抱いて、ガキへのサービスだったかもしれねえけど案外簡単に鳴いて、その後は面白そうだったから男も抱いた。結構興奮して、それで初めて自分がバイなんだって気づいた。そうして夢中になって気づいたら朝になっていて、伸びてないのは俺と父さんくらいだった。丁度よかったからまた言ってやった。「父さん、安心していいよ。」「俺は医者になる。父さんの会社を継がなくても生きていける。」

 俺は一人で生きていけるって。